ニュルブルクリンクへの挑戦 2010

2014.03.18 ニュルへの挑戦

2010.5/13-5/16 ニュルブルクリンク24時間耐久レース 予選・決勝レポート

GAZOO Racingの「ニュルブルクリンク24時間レース」への挑戦は4年目、LEXUS LFAでの参戦は3年目を迎えた。悲願のクラス優勝を目指して戦うチームに密着。実戦テストの目的で出場した3度の「VLN」レースで2度のクラス優勝を果たし勢いに乗るチームは、しかしながら今年も予期せぬドラマに包まれていった。

予選・決勝レポート

スケジュール
【フリー走行】 日本時間 5/13(木)20:00~21:30(現地時間 5/13(木)13:00~14:30)開催
【第1回予選】 日本時間 5/14(金)2:30~6:30(現地時間 5/13(木)19:30~23:30)開催
【第2回予選】 日本時間 5/14(金)19:45~21:45(現地時間 5/14(金)12:45~14:45)開催
【決勝】 日本時間 5/15(土)20:30~5/16(日)22:00開催
現地時間 5/15(土)13:30~5/16(日)15:00開催
スケジュール
【フリー走行】日本時間 5/13(木)20:00~21:30
(現地時間 5/13(木)13:00~14:30)開催
【第1回予選】日本時間 5/14(金)2:30~6:30
(現地時間 5/13(木)19:30~23:30)開催
【第2回予選】日本時間 5/14(金)19:45~21:45
(現地時間 5/14(金)12:45~14:45)開催
【決勝】日本時間 5/15(土)20:30~5/16(日)22:00開催
現地時間 5/15(土)13:30~5/16(日)15:00開催

変化するニュル、挑む理由

今年のニュルブルクリンクはいつもと違う。そんな声が聞かれ始めたのは、GAZOO Racingはもちろん、多くの有力チームが実戦テストのために参戦した「VLN(ニュル耐久選手権)」4時間耐久レースの開幕戦からだった。参加台数が大幅に増加、中でも総合優勝やクラス優勝を狙う自動車メーカー系チームが増え、その結果、中堅の常連チームも引っ張られるように本気度を高め、家族や友人同士でレースを楽しむエンジョイ派のチームがやや減少した。世界で最も過酷なサーキットで行われる耐久レースを制することで、世界中のモーターファンに真価をアピールできることがその背景にある。38回目を迎えた「ニュルブルクリンク24時間レース」は変革期の様相を呈しながら、昨年を実に80台も上回る250台ものエントリーを集めて異様な熱気とともに幕を開けた。

ニュルブルクリンクは、フランクフルトから北西へクルマで約2時間の森の中にある。創設は世界の自動車産業が創生期にあった1927年、直後からレースが開催され大観衆を集めた。日本に本格的なモータリゼーションが訪れた1950年代にはF1グランプリも行われるようになり、1970年に「24時間レース」がスタートするやいなや一気に注目度が高まった。約5kmのグランプリコースと北コースと言われる約20kmを繋いだ25kmものロングコースは他に例がなく、コース幅は狭く、無数の凹凸とアップダウン、先の見通せないブラインドコーナーが連続し、アクセル全開でわずか1周するだけでマシンにとてつもない負担がかかる。「あるクルマの初めての走行試験では、1周でボディがゆがんでしまった」、40年以上のニュル走行歴を持つトヨタのマスターテストドライバーでGAZOO Racingを率いる成瀬弘監督はこう語る。70年代のBMW2002、ポルシェカレラをはじめとする優勝車は、今なお伝説的なスポーツカーとして語り継がれる名車ばかり。それだけに、走行性能開発の仕上げの場としてニュルを選び、「24時間レース」をその集大成の舞台とする自動車メーカーは増加の一途をたどっている。

節目の年、大きな目標を掲げて

レースを通じて“クルマを鍛え、人を鍛える”ことをメインテーマに挑戦を続けているGAZOO Racingにとって今年の「24時間レース」は、この秋にLFAのデリバリーが始まることから大きなターニングポイント。レース経験豊富なアストン・マーティン、コルベットなどと争うSP8クラスでの初優勝、3連覇中のポルシェ勢や同じく大挙エントリーのアウディR8、メーカーとして5年ぶりに復帰したBMW M3など改造範囲が広くスピード差のあるマシンに交じっての総合20位以内を目標に掲げていた。

実戦テストの意味合いで出場した「VLN」4時間耐久レースの第1戦~3戦ではクラス優勝2回に3位と順調に2010年型のレース仕様車を仕上げ、メカニックたちも訓練を積んできた。上位を狙うチームは当然のようにプロのレーシングメカニックを起用しているがGAZOO Racingは当初から一貫してトヨタ自動車の社員がメカニックを担当している。初年度からのメカニックでも経験は3年、さらに今年は約半分が新人という、有力チームから見れば信じ難い体制である。しかし、これこそがこのプロジェクトの真髄で、エンジンはノーマルのまま、エアロパーツ、足回り、ブレーキ、タイヤとホイールを変更した程度の言わばライトチューニングのLFAを社員メカニックが走らせる。苦労は多いが得られるものの大きさは計り知れない。

~フリー走行~ 自信と期待

木曜日の午後1時から、夜の予選1回目を前に最初で最後のフリー走行。わずか1時間半の間にマシンの最終チェックを行わなければならないが、小雨と濃い霧のために15分遅れてスタートした。LFA #50は、先ず「24時間レース」19年目の木下隆之選手がステアリングを握ってコースイン。「ライン上が50%乾いてきたが部分的にはかなり濡れている。ウェットタイヤからカットスリックへ変更しよう。オーバーテイクの際にはリスクが高いから注意して…」と無線を通じて刻一刻と変化するコース状況をピットへ的確に伝えながらピットイン、LFAとともに3年目の飯田章選手へ交代。徐々に乾いてはいくもののウェットとドライが混在する難しいコンディションの中、初挑戦の脇阪寿一選手、同じく大嶋和也選手へと繋いでいった。「いよいよ本番、ドキドキ、ワクワクしながら走りました。マシンの調子がいいので予選が楽しみです」と大嶋選手が語った通り、総合17番手/クラス2番手で順調に走行を終えた。

一方のLFA #51は、いずれもLFAでの出場2年目のドイツ出身の3人がタッグを組む。ベテランのアーミン・ハーネ選手、「24時間レース」2位入賞経験があるヨッヘン・クルンバッハ選手のスムーズな走行に続いて、脇阪選手とともに昨年のスーパーGTチャンピオンに輝いたアンドレ・ロッテラー選手がコースへ。スケジュールの関係で2010年型レース仕様車を初めてドライブしたロッテラー選手だったが、終盤に総合3位/クラストップのタイムを刻む。「クラッシュ車両がいなければ総合トップが獲れそうだったくらい今年のマシンはいい。早くドライ路面を全開で攻めてみたい」と笑顔で語った。すっきりしない天候とは裏腹に、チームの誰もが引き締まった表情の中に確固たる自信と期待を抱いているのがひしひしと伝わってきた。

~予選~ 手応えとアクシデント

夜7時半から、気温5℃/路面温度6℃と異常気象とも言える低い気温、小雨の下で予選1回目が始まった。LFA #50は木下選手が路面は乾いていくと読んでスリックタイヤでコースインしたが、予想以上にウェット部分が多く直ぐにウェットタイヤへ交換し再びコースへ、2ラップして飯田選手へ交代。「難しい路面状況だったので慎重に走りました。えっ、10番手以内ですか!?悪くないですね」と言う飯田選手から脇阪選手、大嶋選手へと交代していき総合20番手/クラス2番手以内を着実にキープ、目標圏内での順調な走行が続く。しかし、9時の日没を40分ほど過ぎた時、2回目のドライブを担当していた脇阪選手から無線が入る。「すみません、接触しました」。滑りやすい路面に足をすくわれハーフスピン、右サイドからガードレールに接触し、フロントバンパーを損傷、右リヤのサスペンションにダメージを負ってしまう。チームの判断でこのまま走行を終了、予選終了後の深夜にメカニックが修理をして翌朝には元の姿に。「ありがとうございました!」と頭を下げる、いつもは陽気な脇阪選手の神妙な表情に、寝不足気味のメカニックが笑顔で応えるシーンがチームのムードを象徴していた。

LFA #51はロッテラー選手、ハーネ選手、クルンバッハ選手の順でローテーションを組み、総合10番手以内/クラストップのタイムで順調な走行を続けた。10時半を回ったところで濃霧のために走行中断、約1時間を残して予選終了となった。今年はレースウィークが始まってから一度も青空を見ていない、そんな声がそこかしこから聞こえてきた。

翌金曜日の12時45分から、曇り空の下で予選2回目がスタート。気温8℃/路面温度10℃と前日よりはだいぶ上がってきたが、それでも5月にしては寒い。LFA #50は木下選手が修復されたマシンのチェックのためにコースイン。「完璧に直っています。ただ、走行ライン以外は泥だらけ、まるでトラクターが走ったみたいです」と無線が入る。今日もまたニュルの洗礼を受けることになりそうだと、ピットで待つ飯田選手が気を引き締める。飯田選手、脇阪選手、再び木下選手と交代しながら総合20番手以内をキープしたまま、最後は大嶋選手がコースイン。1周だけのアタックは「いいペースだったんですが、スローペースのマシンが多くて伸びませんでした」と、チームベストを刻みながらも総合25位/クラス1位。わずかに目標に届かなかったが初挑戦の23歳の奮闘にピットは明るい。

ロッテラー選手が乗り込んだLFA #51は、予選が開始されてもピットでスタンバイしたまま#50の木下選手からのインフォメーションを待ち、スリックタイヤで行けることを確認した後にコースイン。1周目から快調なペースで飛ばし、2周目には早くも総合14番手のタイムを刻んでピットイン。タイムアップを狙ってニュータイヤへ交換しアタックモードでグランプリコースから北コースへ入って行った直後、中継モニターに衝撃の映像が映る。ロッテラー選手がクラッシュ。左フロントフェンダーを大きく損傷したままピットへ自力で戻ってきた。「少しだけブレーキングが遅れてフロントが跳ね右側の草のランオフエリアにはみ出しましたが、濡れていて止まり切れず、左側のガードレールにぶつかってしまいました」。幸い体は大丈夫だったが、マシンには痛々しい傷跡。わずか3周で予選を終え、総合28位/クラス2位からの追い上げを期すこととなった。

~決勝~ 二つの栄光、二つの涙

土曜日、いよいよ決戦の時。スタート直前の気温は13℃、路面温度は22℃とようやく5月の陽気、そして待望の青空が広がっている。予選を通過した197台のマシンと約800名のドライバー、チームスタッフやサポーター、ファンに埋め尽くされたスターティンググリッドに降り注ぐ日差しが、メカニックの手によって完璧に修復されたLFA #51の左サイドに反射して目が眩む。午後3時、22万の大観衆が見守る中、フォーメーションラップを終えたマシンたちが蜃気楼の中、最終コーナーを立ち上がってきた。グリーンフラッグとともに高鳴るエンジン音と歓声、24時間の戦いが幕を開けた。

GAZOO Racingの2台はこれまでの燃費データから7周を1スティント(1区切り)として、給油を挟んで1人のドライバーが2スティントずつ走行する作戦をとる。先ずはLFA #51スターティングドライバーのハーネ選手が総合21位でクルンバッハ選手へ交代、その後、18位でロッテラー選手へ繋いでいく。2度のドライバーチェンジの際、アンダーステアを解消するためにリヤウィングの角度を減らしていったことが功を奏してペースが上がっていくが、スタートから約4時間後、ロッテラー選手が緊急ピットイン。フロントのエアロパーツ、リップスポイラーがぐらついている。関谷チーフメカニックは「他のマシンに踏まれたのではないか」と言いながらテープによる応急処置の指示を出す。約12分の修復を経てコースへ送り出すが症状が完全には収まらず、大事を取ってフロントバンパーごと交換することに。

その作業中、木下選手から交代した飯田選手のLFA #50がブレーキの違和感のために緊急ピットイン、2台のマシンがピットガレージに収まり騒然とする中でメカニックが素早く点検を行う。不安箇所のレース専用部品を交換、脇阪選手へ交代してピットアウト。「ブレーキのフィーリングは問題ありません」との無線に佐藤チーフメカニックが安堵の表情を浮かべるが、順位は94位/クラス6位前後まで大幅に後退。LFA #51はバンパーの交換に加えて、LFA #50に発生したブレーキの違和感への懸念からブレーキ回りのパーツ交換を行ったため、なんと123位まで後退してしまう。序盤でのアクシデントに一旦はピットにやや重苦しい空気がたちこめるが、誰からともなく「まだまだ始まったばかり、挽回できるぞ」と声が飛ぶ。その気持ちに応えるかのようにLFA #50を駆る脇阪選手、大嶋選手と快調なペースで走行を続け、40周目には50位/クラス3位までポジションを回復する。しかし、8時間が経過した夜11時、今度はクルンバッハ選手がドライブ中のLFA #51が緊急ピットイン。オイルに異物が混入するトラブルでまさかのエンジン交換を余儀なくされる。パドック内のテントガレージでメカニックが長時間の作業に入る。

LFA #50は深夜にはクラス2位まで復活し、前を行くアストン・マーティンとの差を1周毎に確実に詰めていく。朝9時半、まるで後方から迫りくるLFA #50の気迫におされたかのように、アストン・マーティンに駆動系のトラブルが発生、ついに総合26位/クラストップへと浮上する。その30分後、メカニックが夜を徹してエンジン交換を行ったLFA #51が11時間ぶりにピットへ戻ってきた。意気揚々と乗り込んでコースインしたロッテラー選手はいきなりLFA #50と同様の好タイムを連発、ピットに歓声が上がり、疲労を隠せないメカニックの赤い目に涙がにじむ。ハーネ選手にステアリングを託しマシンを降りたロッテラー選手は「マシンは完ぺき、メカニックに感謝しています。後は僕たちがチェッカーフラッグまで運びます」と興奮気味に語る。

ゴールまで1時間半を切る頃、LFA #50の飯田選手がチームベストをたたき出しながら総合19位/クラストップでピットイン、脇阪選手がチェッカーを目指す。その際、万全を期してブレーキローター、キャリパー・パッドを交換、疲労がピークに達しているはずの、大半が今年初めてニュルへ挑戦する新人メカニックたちが、5分強と想定されていたその作業を終えた時、ストップウォッチには3分40秒の表示。覗き込んだ目頭が熱くなった。

午後3時、BMW M3 にトップチェッカーが振り下ろされた。GAZOO Racingの2台のLFAはランデブー走行でゴールラインを通過。LFA #50は総合18位/クラス優勝、LFA #51は規定数回数には及ばず惜しくも完走扱いとはならなかったが、メカニックの思いを乗せてチェッカーを受けた。

“クルマを鍛え、人を鍛える”をメインテーマとするGAZOO Racingの挑戦には、実は今年、もうひとつのテーマがあった。それは…“感動と誇りを伝えたい”。目標達成と諦めずに手に入れたチェッカーフラッグ。嬉し泣きと悔し涙。二つの栄光と二つの涙から、クルマを愛する全ての方々に感じて頂けたらと願ってやまない。